海外で亡くなるということ

オマーンはハッサブ港において。

日本から添乗員さん付きのツアーでいらっしゃるお客様は、申し込み旅行会社が手配してるオプショナルツアーに行かれるのがほとんどで、船のオプショナルツアーには参加されないので、その日も他の言語のオプショナルツアーのお手伝いをして終わって一息ついているところに、船内携帯が鳴りました。

ハッサブ港ってなーんにも、なーーーーーーんにもないんです。この港に停泊してる時は、実は何ヶ月も船から出てませんでした。なので、この時間(午前11時30分頃)に電話が鳴るなんて今まで一度もなかったので、何だろう?と思いながら電話に出るとレセプションからで

「あのね、日本人のお客さんが亡くなったの。今グループの到着を待ってるから、すぐ船の出口に向かってくれる?」

え。うちのお客さんが亡くなった?

その時はグループが3つ乗船中だったので、どのグループのお客さんだろう?ネームリスト持って大急ぎで船の出口に向かいました。
既に船長と経理ディレクター(パスポートの責任者)がいて、一緒にグループの到着を待ってると、大慌てで走ってくる添乗員さんが視界に入り、どのグループか判別がつき、添乗員さんが
「すぐ病院に戻らなくちゃ行けないんだけど、死亡診断書を書いてもらうのにパスポートが必要なので、パスポートを下さい!」
※アラブ首長国及びオマーンをクルーズで回る場合は、寄港地全てのスタンプがパスポートに押されてる状態じゃないとドバイで問題が起こるため、お客様のパスポートは乗船時に回収し、下船ギリギリまで船側で預かってます
とお願いされ、経理ディレクターにお願いして取りに行ってもらい、パスポートを添乗員さんに渡したところで船長が
「紙に書かれた死亡診断書を自分がこの目で見ない限りは、パスポートは渡せない」
と言い始めちゃいまして。
添乗員さん(イタリア語話せます)は、でも病院が必要だって言ってるからと船長に食いつき、でも自分がパスポートの総責任者だから、キミの言葉だけでパスポートは渡せないと押し問答になりました。
しばらくしてオマーンのエージェントが私に
「本当にパスポートがないとダメなのよ。病院はパスポートを待ってるの」
と言い、
「いや、船長がダメって言ってるから、私が話しても埒が明かないから、あなたが直接船長と話してくれる?」
と返答して、エージェントが船長と話をし、結局お亡くなりになられたお客様のパスポートは船長が握りしめたまま、船長自ら添乗員さん、エージェントと一緒に病院へと出向いていかれました。

死因は心臓発作でした。
死亡診断書にはHeart attackと記載されてました。
本当になにもないハッサブでは、オプショナルツアーといえば、コレ。のダウ船にのってのオマーンフィヨルドクルーズ、このオプショナルツアーに参加されているときに心臓発作が起きてしまわれたそうです。
オマーンフィヨルドはイルカも見れるし、きれいな海で泳ぐことが出来ることで知られており、添乗員さん曰く、一番最初に海に入られ、でもすぐ戻っていらっしゃったので、あれ?もういいんですか?と聞いたら、うんうん、十分。お魚が沢山いたよ〜。とニコニコして答えられたとか。
これが最後の言葉になってしまったそうです。
その後意識を失い、鼻血が出始めたことから、幸いなことにグループの中に女医さんがいらして、その方の指導のもと必死に心臓マッサージをされたそうですが、残念ながら帰らぬ人になってしまったとのことでした。添乗員さんの両腕には、30分以上必死に心臓マッサージをやったためか、紫色のスジ状の痣が出来ていました。
女医さんからは、「午前11時05分、ご臨終です。」
と添乗員さんにそっと告げられた、と。
当然のことながら、ダウ船にはグループの他のお客様達もいらしたのですが、他の方からは見えないように配慮したそうで、女医さんと亡くなられたお客様の奥様以外は、誰もこのお客様がお亡くなりになったことは知らないとのこと。
添乗員さんと話し合って、楽しい旅のお仲間が亡くなったと知ると旅が台無しになるので、とにかく他のお客様にはこのことは伏せましょう。ということで他言無用でクルーズを続けました。

オマーンのコーストガードからも奥様に事情徴収がありました。
クルーズ会社及びこのオプショナルツアーをオーガナイズした地元のエージェントに、手落ちと思われる点はないですか?
添乗員付きのツアーでいらっしゃるくらいですから、奥様は英語を理解できないため、私と添乗員さんと交互で通訳しながら、事情徴収を終えました。
事情徴収終了後、その場にいた全員(船長、レセプションマネージャー、添乗員さん、奥様、私)にコーストガードからオマーンの紋章が送られました。
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ご主人の終焉の地となったオマーンをどうぞ忘れず、いつでも覚えておいて下さい、と。

乗船中は常に持ち歩くバックに付けています。

1週間後。
船のオプショナルツアーではありますが、亡くなられたお客様が参加されたのと同じオプショナルツアーに行ってきました。
ダウ船がゆっくり出港して、オマーンの白っぽい岩がせりたつフィヨルドを見ながら、ピョンピョンと時折水しぶきをあげながら泳ぐイルカを見ながら、あのお客様は今私が見てるものと全く同じものを人生最後の瞬間にご覧になったのだな、そしてツアー参加者に開放している遊泳ポイントにつくと、まさにそこで心臓発作が起きたので、静かに初七日の祈りを捧げました。

人生はいつ終わりが来るか、本当に分からない。明日が来ることが当たり前だと思っては行けない。
その時を大切に生きなければ。
と、この件で本当に心から痛感しました。

ご遺体は、アラブの週末(金曜日)が入るので日本搬送までに10日ほどかかる。と日本大使館から連絡が入り、離団されてもご遺体の側にいれるわけじゃなし、ホテルでただ一人時が経つのを待つしかないので、それならばグループの皆さんと一緒に先に日本に帰りましょう。と添乗員さんが勧め、奥様もクルーズに戻られることを了承されたそうです。
非常に保障の高い海外旅行保険に入られていたので、ご遺体の搬送(棺も含め)、保険会社と日本大使館で行ったそうです。日本大使館からは、宗教はなんですか?と聞かれ、宗教によって棺の種類が変わるのと、且つ日本到着時に動植物検疫をパスできる棺を手配する必要があるとか。
いろいろ勉強になりました。

ジェノバに戻って来て1ヶ月経ちましたが、時々、お客様のお葬式は無事に終わったんだろうか、奥様はもう元気を取り戻されたかな?とふと思い出します。
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by smilenory | 2015-03-29 01:59 | クルーズライフ

イタリア人夫と猫を家に残しクルーズ船で働きながら、思ったことを綴っています
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